- 声優のボイスサンプルってなに?
- ボイスサンプルの内容が詳しく知りたい
- ボイスサンプルって自分で原稿を用意するの?
この記事を書いている声優のchikamichiと申します!
声優として活動するうえで必須となるのがボイスサンプル。
しかし、ボイスサンプルについて詳しくない声優志望者も案外多いです。
僕自身もボイスサンプルは数多く作ってきましたが、初めのころはどう作ればいいのか、まったく分かっていませんでした。
とりあえずアニメや漫画のセリフから引っ張ってきた記憶があります…汗
そして今でもボイスサンプルづくりは大変な作業だと感じています。
なぜなら、納得のいくボイスサンプルを完成させるには、かなりの時間と労力が必要になるからです。
これがボイスサンプルをよく把握していない状態ではなおさら大変です。
なので、声優志望者はまずボイスサンプルについて詳しくなることをオススメします。
そこでこの記事では、ボイスサンプルに関する知識を初心者の方でも分かりやすい内容で解説していきます。
- ボイスサンプルは声の名刺
- ボイスサンプルの内容はセリフやナレーション
- ボイスサンプルは自分で原稿をつくる
この記事を読めば、ボイスサンプルがどういったもので、なぜ必要なのかが分かります。
ボイスサンプルは声の名刺
ボイスサンプルとはセリフやナレーションを録音した音声データのことを指します。
略して、ボイサンとも呼ばれます
そんなボイスサンプルがなぜ声優の必需品かというと、名刺の役割を担ってくれるからです。
知っての通り、名刺はビジネスマンの肩書きを端的に説明するのに役立ちます。
それと同じように、ボイスサンプルを聞くだけで(声優本人に直接会わずに)その声優の声質や語り口、雰囲気を簡単に確認することができます。
ボイサンのおかげで簡単に声質などを伝えられることは、声の仕事を依頼する側(クライアント)と依頼される側(声優事務所・声優)の双方にメリットを生みます。
- クライアント側
自分たちの抱くイメージに近い声優をボイスサンプルを聴く手間だけで見つけられる
- 声優・事務所側
仕事の依頼ごとに、声優の声質や演技の特徴を直接伝える手間が省ける
ボイスサンプルがあるだけで依頼のやりとりは格段に早くなります。
実際、声優事務所では仕事の依頼に対して
- step1候補者をピックアップ
マネージャーやスタッフが、所属声優の中からイメージに合った候補者を数名ピックアップ
- step2候補者たちのボイスサンプルを提出
クライアントに候補者たちのボイスサンプルを聴いてもらう
- step3担当する声優が決定
クライアントが候補者の中からイメージに合った声優を指名
という方法で円滑化しています。
ちなみに事務所に所属している声優のボイスサンプルは業界の関係者以外でも簡単に聴くことができます。
声優のボイサンを実際に聴いてみよう
事務所に所属する声優であれば、各事務所のホームページ内でプロフィールと共にボイスサンプルの音声データが公開されています。
上のように検索すれば、目当ての声優のプロフィールページに簡単にたどり着けるでしょう。
このようにボイスサンプルは、各声優を端的に「覚えてもらう」「知ってもらう」ために便利なものとなります。
なので当然、声優業界ではボイサンを聴いてもらう機会がめちゃくちゃ多いです
ボイスサンプルが利用される場面
このように多くの場面でボイスサンプルは利用されています。
これは「一次審査で候補者が多数でも時短で審査できる」「直接合わずとも声の確認ができる」といったメリットがあるからです。
ボイスサンプルのメリット
この2つがボイスサンプル最大の強みです。
100人、200人規模の候補者を審査する場合、ボイスサンプル審査でないと途方もない時間を消費することになります。
ボイサンのおかげでサクッと審査できました!
しかし、この強みが思わぬ弊害になる場合があります。
ボイスサンプルのデメリット
ボイスサンプルは声優にたくさんの恩恵を与えてくれますが、デメリットも存在します。
そのデメリットとは「本人の肉声よりもボイスサンプルを先に聴いてもらう場合」が圧倒的に多いということです。
これは「声優本人に直接会う手間が省ける」というボイサンの強みが影響しています。
それがなぜデメリットにもなるかというと、たとえばボイスサンプルの出来がイマイチだったらどうでしょう。
先に聴いたボイスサンプルがイマイチなときに、声優本人の実力をどの程度に見積もりますか?
大半の人は、ボイスサンプルと同じく「声優の実力もイマイチだろう」と判断すると思います。
これはクライアントの方たちも同じで、ボイスサンプルのクオリティが低いと、声優自身の能力が低いと判断します。
つまり、声優自身がどれほど優れていても、ボイスサンプルの出来が悪ければ、クライアントはその声優を採用しようとは思いません。
このような状況は、ボイスサンプルを多用している現在の声優業界では、ほぼ全ての仕事依頼で起こっています。
ボイスサンプルで第一印象が決まる
そもそもクライアント側がボイサンを確認する時点では、声優本人とクライアント側に直接的な繋がりは基本ありません。
繋がりが既にあるなら、わざわざボイサンを聴く必要はないですからね
「ボイスサンプルは名刺」と例えたように、ボイサンを聴いてもらう場面は「はじめまして」のタイミングがほとんどです。
とくに知名度がゼロに近い新人のころは、事前にクライアント側に知ってもらえている状況はほぼないでしょう。
つまり、新規の仕事依頼のときには、常にボイスサンプルがあなたの第一印象として、クライアント側に記憶されるわけです。
関係値ゼロなので、本当にボイサンのみで判断されます
そして、ボイスサンプルの出来が悪いと「二次審査に進めない」「候補者の中から選ばれない」という状況に陥ってしまいます。
これを防ぐためにも、ボイスサンプルは「この声優良さそう!」と必ず思ってもらえる高品質なものを完成させる必要があります。
ボイスサンプル=第一印象なのでとても重要!
ボイスサンプルを実力以上に仕上げることはできる
「ボイサンが大事なのは分かったけど、録音した音声と自分の肉声に違いはないんじゃ?」と考える方もいるでしょう。
たしかに同じ人物の声なので近い時期に録音したものならば、声質や技術的な面での差は生まれません。
しかし、ボイスサンプルはそれぞれの声優で差を生み出す余地があります。
それが何かというと、ボイスサンプルの題材選びです。
ボイサン原稿に使うセリフやナレーションの内容は自由に選べます
というか、ボイスサンプルのメインは題材選びといっても過言ではありません。
題材選びを工夫することで、ボイサンを実力以上に仕上げることも容易だからです。
もちろん、逆に実力以下のイマイチなボイサンにしてしまう可能性もありますが。
ボイスサンプルを極めたいなら、まずは題材選びの腕を上げることに照準を合わせましょう。
「本来の実力」と「ボイサンのクオリティ」が違い過ぎる問題
ちなみに「実力以上のボイサンを作ると、現場に呼ばれてから(実力不足で)困る」と否定的な意見もあります。
これは現場で「あれ?ボイサンよりも下手で使い物にならないぞ」ともめる場合があるからです。
こういったトラブルにならないように「実力相応のボイスサンプルをつくりましょう」という指導が存在します。
たしかにクライアント側からすれば、実力不足な声優を誤って選ぶ可能性があるわけですから、自重してほしいかもしれません。
しかし「実力相当のボイサンで現場に呼ばれない」よりも「実力以上に盛れたボイサンで現場に呼ばれて苦戦する」方が良いのでは?と僕は考えます。
なぜならずっと採用されないよりも、一度でも現場に出る回数を増やすほうが得だと考えるからです。
「新人」「初心者」「実績が乏しい」といった人たちが仕事を獲得するのは簡単な話ではありません。
新人よりもベテラン、実績が乏しいよりも豊富な人材を選びたくなるのは当たり前です。
そういった人たちとの競争に勝つためには、マジメに小さくまとまるべきではないでしょう。
そもそも実力の乏しい初心者に「実力相当で戦え」って指導は受からせる気がないような…
なので、あくまで僕個人の考えですが、声優飽和時代にわざわざ埋もれるような選択をする必要はありません。
ガンガン実力以上のボイスサンプルをつくって、仕事を獲得しましょう(もちろん実力を上げるのが一番ですけどね)。
ボイスサンプルの内容はセリフやナレーション
実際のボイスサンプルの中身がどういったものかというとセリフとナレーションです。
それ以外だと、朗読やフリートークを採用している方もいます。
基本的にはセリフとナレーションだと覚えておけばOK!
といっても、セリフとナレーションの配分だったり、全体のタイム尺などは各事務所の方針でさまざまです。
基本的には、C事務所のような明確なルールが全くない事務所は少ないです。
ある程度は事務所側から要求があり、その要求に沿ってボイサンを作成します。
そのため同じ事務所内では、ボイサンの規格が統一されていることがほとんどです。
なので、○○事務所の声優Aさんが「自分だけはセリフのみでボイサンをつくります」みたいなことは基本的にできません。
○○事務所所属の声優なら、全員が○○事務所指定の枠組みに収まる範囲で作成します
いくつかの声優事務所のホームページで実際に確認してもらえれば、配分や尺に法則性がある事務所が見つかるはずです。
逆にいえば、ボイサンの中身の配分を見ることで、その事務所がどういったジャンルの案件を得意としているかが判断できます。
ボイスサンプルの中身から各事務所の強みをリサーチ
たとえば、ナレーションの仕事依頼が多い事務所であれば、当然ボイサンにナレーションを採用した方が仕事に直結します。
それなのに、所属声優がセリフ多めのボイスサンプルを作っていては、需要にマッチしていませんよね。
ナレーションが得意な事務所としては「うちの声優はこんなナレーションの技術があります」とたくさんアピールしたいわけです。
結果、事務所側は所属声優に対して「最低でも3本はナレーションを採用してください」といった要求をします。
といった背景があるので、所属声優のボイサンにナレーションが多く採用されている事務所の場合は
と判断して良いでしょう。
話がそれましたが、ボイスサンプルの比率から「各事務所の得意分野が分かる」という裏技でした。
ちなみに大手の事務所ほど、ナレーション重視の構成が目立つ気がします
セリフとナレーションといっても千差万別
ボイスサンプルの中身はセリフとナレーションと言いましたが、一口にセリフやナレーションといっても幅が広いです。
- セリフ
- アニメを意識した演技
- 外画吹替を意識した演技
- ナレーション
- 番組ナレーション
- コマーシャル系
- 企業系ナレーション
さらには、作品ごとの作風や取り扱う商品、番組の雰囲気で演じ方、語り口は変わっていきます。
これがボイスサンプルづくりを難解にさせている原因のひとつです。
ボイスサンプルは自分で原稿をつくる
これまでの説明でお気づきの方もいると思いますが、ボイスサンプルは自分で原稿を作らなければいけません。
事務所に所属したからといって、自分に合った原稿素材を事務所が全て用意してくれるなんてことはないのです。
つまり、セルフプロデュース力が必要になります。
これがなかなかに厄介で、
こういったことを考えながら、原稿をつくっていかなければいけません。
これは普段、声優やナレーターが台本や原稿を与えられて、その世界に入り込んでいく際につかう筋肉とは別ものです。
- 普段の声優の仕事
受け取った原稿から演じ方、読み方を考えるのは得意(役者の仕事)
- ボイスサンプル
自分に合った原稿を自分で生みだすのは苦手(脚本家、演出家の仕事)
自分をより良くみせる題材を選ぶ能力は、普段の声優活動ではなかなか培われません。
なので、プロでもボイスサンプルづくりに苦手意識をもつ方は多くいます。
しかも、フリーで活動している方や個人でボイサンをつくろうと考えている方は、セリフとナレーションの配分やタイムの尺の制限がない分、考えることがさらに多いです。
自由度が高い分、決めることがたくさん…汗
「でも、自分の得意なものを詰め込めば、良いボイサンが出来上がるのでは?」と考える方もいるでしょう。
しかし、ボイスサンプルは自分の得意を詰め込むだけではうまくいきません。
なぜなら、そのつくり方では主観的な視点しかないからです。
ボイスサンプルづくりには客観的な視点が不可欠になります。
客観的な視点がないと、自分のやりたいことが先行して、自分をより良くみせるという考えを見失ってしまうからです。
自分の「得意」「やりたい」だけでボイスサンプルを作成しても、一見悪くないような気がします。
しかし、客観的に見てみると、上の例には色々な問題があることが分かります。
と、問題は山積みです。
もちろん「ナレーションの仕事は興味がないから絶対にやりたくない」といった考えがあるなら、ナレーションを入れないボイスサンプルでも良いでしょう。
しかし、基本的にボイスサンプルは仕事を獲得するためのものです。
そのチャンスが広がるように作成しなければ、そもそもボイスサンプルを作成する意味がありません。
なので、案件数が多いナレーションに対して、きちんとアプローチしたボイスサンプルを作成することは効果的だと考えます。
またアニメのキャスティングにしても、役幅や演じられる年齢が狭い声優は採用されにくいので、ボイスサンプルで様々な役柄、年齢を演じてアピールすることは効果的です。
このようにボイスサンプルは「自分のやりたい」よりも「クライアント側がどういった声優を求めているのか?」を突き詰めていった方が良いものができやすいです。
自己満のボイサンを作ってしまうのは危険!
その際に「このボイスサンプルを聴いた人がどんな感想を抱くだろう?」としっかりと把握できていると、クオリティの高いボイスサンプルに仕上げることができます。
- step1ボイスサンプルを聴いた人はどういった感想を抱くか?
例:大人っぽい雰囲気を感じたが、逆に若さを感じられなかった
- step2その感想を抱かれたことによって、自分がどのように思われるか?
- 外画吹替に合った声質
- 高級感のあるナレーションが任せられる
- 学生役は厳しい
- テンションの高い原稿は合わない
- step3その声優像には自分がやりたい仕事や幅広い案件が依頼されやすいか?
- ○:外画に挑戦したい
- ×:中高生の役がやりたい
- step4されにくいならば、原稿の内容を変更し、より良い声優像に変化させる
学生役ができるように若さを感じられる題材を加える
step1~4を繰り返して、ブラッシュアップしていくことで、理想のボイスサンプルに近づいていきます。
「どんな感想を抱くか?」と考えたときに「役幅が狭い」などのマイナスイメージを抱かれる可能性があると判断すれば、それを解消できる原稿に変更すべきです。
上の「得意なことだけでつくったボイサン例」でいえば
①「アニメ演技しかできない」「役幅や演じられる年齢が狭い」「ナレーションなし」という感想を抱かれる
②「外画やナレーションが守備範囲外」「演じられる役が狭くて使いにくい」と判断される
③自分の「得意」「やりたい」ことはアピールできているが、役幅が狭く使いにくいと判断されているので、役者として低く評価される。外画やナレーションの仕事も依頼されにくい
④対策として、
- 「外画寄りの設定の台本を用意」
- 「ナレーション原稿を用意」
- 「40~50代の落ち着いた役の台本を用意」
- 「テンション高めで演じる役柄の台本を用意」
などが思いつく
このように原稿を変更するだけで「外画やナレーションを視野に入れている」と思ってもらえます。
それに「役幅が狭い」とボイスサンプルから判断されることもなくなります。
ボイスサンプル原稿を吟味することで、仕事を依頼してくれる方の間口をグッと広げることができるのです。
そして、この作業は原稿の内容を変更するだけなので、演技力の有無は関係ありません。
(自分の得意なこと以外にも手を出しているので、全く関係がないとは言えませんが)
なので、演技初心者の方でも「ボイスサンプルの内容からどういった声優だと思われるか?」と考える作業を取り入れるだけで、ボイスサンプルの質を高めることができます。
結果、たくさんの現場に呼ばれるキッカケになるでしょう。
今回、ボイスサンプル原稿の詳しい内容まで解説できなかったので、また別記事で紹介したいと思います。
「演技が上手く聴こえるセリフ台本の書き方」や「ボイスサンプルの演技で気をつける点」などを紹介する予定です。