声優の仕事には「朗読」というものがあります。
ラジオやTVで放送されるものや、劇場で生披露する朗読会や朗読劇といったものがあり、声優の仕事の中でもわりとポピュラーな部類です。
なので、養成所や専門学校でも朗読のレッスンが行われています。
しかし「そもそも朗読ってなんだ?」と疑問を感じている人も多いのではないでしょうか。
他にも
- 音読は分かるけど、朗読ってなに?どっちも同じ意味?
- 音読より朗読のほうがすごいの?
- 声優は音読ではなく朗読をやるべき?
と気になっている人は多いはず。
なので本記事では
- 音読と朗読のそれぞれの意味
- 朗読は音読の完全上位互換ではない
- 演技の練習には朗読、アナウンスの練習には音読がオススメ
こちらの内容を詳しく解説、紹介していきます。
そもそも「音読」は小学校や中学校の国語で経験した人が大半だと思うので、イメージをしっかりと持っている人が多いと思います。
しかし、朗読についてはぼんやりとしたイメージしかない人が多いのではないでしょうか?
僕自身も、声優の勉強を始めたころは朗読のイメージがはっきりとしていませんでした。
というか、きちんと朗読を聞いた記憶も無かったので、自分が朗読をする側になったときにかなり困りました。
『ぼんやりとしたイメージで、ぼんやりと朗読っぽく』読んでいても、一向に上達はしません。
この記事は、音読と朗読の違いをメインに解説しつつ、最終的には朗読のイメージをしっかりと理解できる内容となっています。
朗読の意味を知れば、あなたも朗読が上手くなります。
音読と朗読のそれぞれの意味
はじめに音読と朗読がどういうものかを説明します。
- 音読:文章を声に出して読むこと
- 朗読:文章に感情を込めて読むこと
基本的にはこのようなイメージで考えてもらえば大丈夫です。
さらに詳しい「音読と朗読」の定義は文部科学省のホームページに記載されています。
7 音読・朗読
出典:7 音読・朗読:文部科学省を加工して作成
7‐1 音読と朗読
1.「音読」は、黙読の対語(たいご)だから、声に出して読むことは広く「音読」である。
2.「音読」は、正確・明晰・流暢(正しく・はっきり・すらすら)を目標とする。
3.「朗読」は、正確・明晰・流暢に以下を加える。
ア 作品の価値を音声で表現すること
イ 作品の特性を音声で表現すること
(読者の受け止めた作者の意図・作品の意味・場面の雰囲気・登場人物の性格や心情を)
〔参考〕
平成10年版「学習指導要領」では、以下となっている。
「音読」 小1~4の理解領域
「朗読」 小5、6の表現領域
要約すると、声に出して読むことは全て音読であり、朗読も音読の一種という訳です。
その中で朗読は、音声での表現をする必要があるということです。
朗読は音読の完全上位互換ではない
音読と朗読は最終的な目標が違います。
しかし、上の説明では朗読が音読の上位互換といっても良いように解釈できますし、実際に「音読を卒業して、朗読を目指そうね」と音読より朗読の方が上のように指導する講師が多いのも事実です。
でも実際は音読と朗読は目指す方向性が違うので上位互換・下位互換の関係ではないと思っています。
文章を正確に伝える技術と文章で表現する技術は相性が悪い
文部科学省が定めた音読と朗読の定義では、音読は「正しく・はっきり・すらすら」と読むことを目標とするものです。
そして朗読は「正しく・はっきり・すらすら」と読むことにプラスして、場面の雰囲気・登場人物の性格や心情を表現するものであると説明されています。
こう比べると、朗読は音読の要素に表現力が加えられていて、上位互換のように感じます。
しかし、現実的にはこの朗読の定義を再現するのは難しいです。
なぜなら、文章を正確に伝える技術と文章で表現する技術は相性が悪いからです。
例えば、悲しい心情を表現するときに、声をかすれさせて読むのは効果的です。
しかし、正しく伝える手段としては音が不明瞭になって不適切ですよね。
朗読が音読の上位互換であるのならば、普通に音読するよりも聞こえにくくなる読み方になってしまうのはおかしな話です。
つまり、朗読は音読の上位互換ではないのです。
100%の正確さと100%の表現力の両立はできません。
今回の例で説明するなら、かすれたような声ながらも、しっかりと相手に伝わるかすれ加減に調整するのがひとつの正解でしょう。(正確さ:85%、表現力:90%)
文章を正確に伝えようとすると言葉は淡々と聞こえ、リアリティがない音になります。(正確さ:100%、表現力:40%)
逆に表現力を重視しようと泣きながら読めば、聞いている側はなんと言っているのか聞き取りにくくなります。(正確さ:40%、表現力:100%)
パーセンテージはイメージですが、基本的に正確さと表現力のどちらかを100%のクオリティにもっていこうとすると、もう片方のクオリティはどんどん下がっていきます。
つまり、朗読では正確さと表現力の配分を考える必要があるという訳です。
実際に、アニメのアフレコでは作品にリアリティ(=ナチュラルさ)を持たせるために、声優がわざと滑舌を甘くして演技している場合もあります。
「正しく・はっきり・すらすら」を追求した読み方は、声優などの表現者からすれば、演技にリアリティが無くなる原因になることもあり、むしろ邪魔な要素ともいえます。
もちろん、「だったら滑舌とか今のままでいいか!」とは思わないでくださいね。
「正しく・はっきり・すらすら」と読む技術がある声優がわざと滑舌を甘くしているだけです。
声優としての幅を広げるためにも、「正しく・はっきり・すらすら」と読む技術はあった方が良いですよ。
音読と朗読の最終目標
音読と朗読は上達するために意識することが違います。
音読が読みの正確さの精度を上げていくものに比べて、朗読は正確さと表現力の精度を上げつつ、正確さと表現力のバランス調整も必要になっていきます。
この違いをきちんと意識することで効率的に練習できます。
- 音読:内容を正確に伝えるための読み方(正確さ100%を目指す)
⇒最終目標はアナウンス - 朗読:内容に表現を加えるための読み方(正確さと表現力をバランスよく配分する)
⇒最終目標は朗読・ナレーション
しかし、朗読が音読の上位互換だと考えていると、実現不可能な正確さ100%・表現力100%の理想像を追い続けることになってしまいます。
朗読が上手くなりたいなら、しっかりと朗読の定義を自分の中に定着させましょう。
音読や朗読の目指す方向性をしっかりとイメージする方法として、音読では実際のアナウンサーの読み方、朗読では声優・ナレーターの朗読を聞いてみることをオススメします。
それぞれの目標をきっちりと定めることができますよ。
演技の練習には朗読、アナウンスの練習には音読がオススメ
音読と朗読は方向性が違うので、伸ばしたい能力に合わせて音読と朗読の練習をうまく使い分けましょう。
「声優を目指すなら、音読練習をする意味がないのでは?」と思っている方もいるかもしれませんが、声優は言葉を扱う職業です。
アナウンサーになるつもりがなくても、言葉を正確に伝える技術は必要になってきます。
事実、専門学校や養成所でもアナウンスのレッスンが取り入れられているところは多いです。
まとめ
音読と朗読の違いについて解説しました。
音読と朗読の本当の意味が分かれば、「音読ではなく、朗読を練習しよう」といった考えにはならないと思います。
音読の練習と朗読の練習を両方やることで、効果的にスキルを上達させることができるでしょう。
それに朗読の定義を明確にすることは、「演技」と「朗読」の違いを理解しやすくなるというメリットもあります。
演技は朗読よりも表現力に重視した配分だと思ってもらえれば、演技と朗読の違いが初心者でもイメージしやすいと思います。
最終目標をきちんと設定することで効率よく「朗読を読む力」を上達させていきましょう。