- 演技がなかなか上手くならない
- ちゃんと演技ができるようになりたい
- 演技中に意識すべきことを詳しく知りたい
声優になるために必要なものとして「演技力」が挙げられます。
声優はただセリフを声に出しているだけではありません。役の気持ちになって、セリフに感情を込める作業をおこなっています。
当然、声優志望者も専門学校や養成所で演技の勉強を学びますが、演技って非常に難しい…。
そう思っている声優専門学生や養成所生、声優を目指そうと独学で頑張っている方はたくさんいると思います。
僕は声優歴10年以上の男性声優chikamichiです!
僕自身も演技の勉強を始めた頃、演技のことでたくさん悩みました。
「演技ってそもそも何をやれば良いの?」と根本的な部分から、僕はさっぱり分かっていなかったのです。
それまでの人生で「演技をする」ということに一切触れてこなかったですし、演技に近い行為もイメージできなかったので、演技の取っ掛かりを掴むまでにとても苦労しました。
しかし、取っ掛かりを掴むことさえできれば、「演技をする」ということがどういうことなのかを理解できると思います。
そこでこの記事では、演技のことをよく理解できていないであろう声優志望者の方に向けて、ゼロ知識からでも、演技する上でのコツ(取っ掛かり)を掴む考え方を紹介します。
- セリフをそれっぽく言っているだけではダメ
- キャラの設定を深堀りして、奥行きのある演技にする
- 設定は全部使わず、1~2個をピックアップしよう
- セリフを言うときの演技の組み立て方
この記事を読めば、初心者演技を卒業するキッカケを掴む方法が分かります。
セリフをそれっぽく言っているだけではダメ
セリフを言う前にしっかりと要素・設定を練りましょう。
あなたは台詞を読むときに、何を意識していますか?
セリフを言うときには、なんとなくの雰囲気で言ってはいけません。
なぜなら、なんとなくでセリフを言うと、聞いている側にもなんとなくでしか伝わらないからです。それでは一向に上手くなりません。
セリフを言うときには、演技に必要な要素・設定を自分の中にきちんと落とし込まなければいけません。
アニメや外画の声優の演技を思い出して、なんとなく雰囲気をマネして台詞を言っても、それは声優の演技のモノマネをしているだけです。
「自分はマネしているんじゃないし、セリフを言うときに役の設定や声色をちゃんと考えているのに上手くいかない」と思っている方は、設定の作り込みが甘いのが原因です。
声優の勉強を始めたての頃は設定を作り込むという行為自体をそもそも分かっていない方が多いと思います。僕自身もそうでした。
初心者が役の設定を練るときに考えている内容の例を紹介します。
先に言っておくと、この例のような作り込みだとかなり浅い設定です。
だいたいの初心者が「役の設定を考えよう」とアドバイスされて考えているのはこれぐらいだと思います。
キャラのタイプや声色を考えるのはとても大事なことです。しかし、この程度では役の設定としては薄い部類になります。
その理由は、演技するときに感情面で意識することがほぼ無いからです。意識することが無いということは、演技が上手くなる要素も無いということになってしまいます。
上の例で挙げた設定の中からキャラを一人、作ってみましょう。
キャラの役柄:熱血系
声色:高めの声、大きい声
⇒「熱血系で、爽やかな高めの声でハキハキと大きな声で話すキャラ」
キャラのイメージを持ちやすくなったと思いますが、これだけではキャラが周りから思われている設定のみしかありません。
「熱血系」、「大きい声」などは見た目的な情報で、感情面の演技に直結していない設定です。
演技の種類で分けるなら「外側の設定」だといえます。
こういった要素は、自分をキャラに近づける助けにはなりますが、キャラの感情を作る手助けにあまり役立ちません。
「でも、身体的特徴が感情の演技に直結しないのはなんとなく理解できるけど、キャラのタイプは性格に関係することだから感情面のことじゃないの?」と思う方もいるかもしれません。
しかし、キャラのタイプを意識するだけでは、外側の設定のままで終わります。
なぜなら、「イケメンをカッコよく演じよう」、「美少女を可愛く演じよう」は結局のところ、キャラのタイプをマネしているだけだからです。
「元気な役だから大きい声にしよう」や「高校生の役だから高校生っぽくしよう」という考えと本質的に変わりません。
こういった設定が「喜怒哀楽」などの感情に作用する要素って、そんなに無いのです。
「イケメンだから怒るときにこうなる」とか「熱血系だから悲しむときにこうなる」みたいなことって、明確にイメージしにくいですよね。
外側の設定が感情面の演技であまり役立たない証拠です。
余談ですが、キャラの外側の設定を考えるときに、普段からアニメや漫画作品によく触れている方は相性の良い設定を組み合わせる能力が高いと思います。
例えば、「頭脳派」と「メガネキャラ」とか、「渋い」と「低音」、「身体が大きい」と「話すペースがゆっくり」などを感覚的に相性が良いなと思える方は能力が優れています。
今回でいうと、「熱血系と小さい声」などは相性が悪い組み合わせです。
もちろん、相性が悪いだけで「熱血系と小さい声」を両立したキャラが絶対ダメだという訳ではありません。
相性の良い設定を組み合わせる能力が高いことはとても大切なスキルなのですが、ひとつデメリットがあります。
それは演技初心者ほど当てはまるのですが、「相性の良い設定を組み合わせるのが得意な分、設定を組み合わせただけ」で満足してしまい、それで役作りが終わったと勘違いしてしまうということです。
つまり、「外側の設定を組み合わせてキャラを作り上げること=演技」だと勘違いしてしまっているのです。
しかし先に言った通り、役作りというのは設定を組み合わせる作業のことだけではありません。
シーンごとにどのような反応(リアクション)をするのか、どのような思考をするのかと考えるのも演技を構成する大切な要素です。
つまり、キャラの「内側(感情・内面)の設定」ですね。
「設定を組み合わせてキャラを作り上げること=演技」と考えているとキャラの「内側の設定」を意識することができません。
「熱血系で、爽やかな高めの声でハキハキと大きな声で話すキャラ」という設定は全てキャラの「外側の設定」です。
熱血系なのも、高い声で大きい声なのも、キャラ自身は普段から意識していませんよね。
無意識・自然にそういう雰囲気・状態になっているだけであって、自分から「自分は熱血系だよ」とアピールするように演技をするのはおかしな話です。
もちろん、演技をする上でキャラのタイプや外見の要素を表現することも大事ですが、外側の要素だけだと「私は〇〇〇というステータスを持っているキャラです」と伝えるだけのつまらない演技になってしまいます。
上で作ったキャラの場合なら、どのセリフでも「私って熱血系でしょ。声爽やかで大きいでしょ」と伝えているだけになってしまいます。
これでは、いくら熱血系を上手く表現できて、役に合った声色を出せても、セリフを言おうとすると、キャラの中身がスカスカでうまく演じることができません。
考えてみれば当たり前のことなのですが、演技というものがどういったものかを理解していない状態だと外側ばかりの演技をやり続けてしまいます。
それを解決するためにも、役の設定を考えるときには作り込みをしっかりして、ぼんやりとした演技になることを防ぎましょう。
キャラの設定を深堀りして、奥行きのある演技にする
演技を上達させるために、設定の深掘りをしていきましょう。
設定の深掘りをすることで外側の設定をより強固にすることができます。
それに加えて、内側の設定も考えることができるので、演技プランを作りやすくなります。
今回は深堀りするための一例をリストとして用意しました。
①年齢 ②性別 ③職業 ④趣味
⑤家族構成 ⑥悩み ⑦夢
このリストを埋めることで、役の内面の設定をイメージしやすくなります。
上の「熱血系で、爽やかな高めの声でハキハキと大きな声で話すキャラ」で考えていきたいと思います。
年齢:18歳 | 性別:男 |
職業:高校生(3年生:野球部) | 趣味:甘いものを食べる |
家族構成:父・母・兄・弟の5人家族 | 悩み:英語の授業がさっぱり分からない |
夢:甲子園出場 |
当たり前ですが、リストを埋める前よりもキャラをイメージしやすくなりましたよね。
高校3年生で男兄弟で育った次男坊、甘党、英語が苦手な野球少年。
こんなイメージを持つだけでも演技は上手くなります。
「自分はリスト化まではしていないけど、年齢や職業などの設定を普段から考えている。だけど上手くいかない」という方もいるでしょう。
そういう方は、リストに書いた設定をそのままの形で意識しているからです。
つまり、リストに書いた設定を使って、さらにイメージを膨らませる必要があります。
そのために「連想ゲーム」をしましょう。
連想ゲームでリストを深掘りする
リストの設定からイメージできる人物像をさらに明確にしていきましょう。
今回の例なら、高校3年生の野球部所属の18歳と決めました。
そうすると、野球部では上級生として振舞っていると予想できます。
大人からすれば、高校2年(17歳)も高校3年(18歳)も大きく変わりはありませんが、学生時代の一歳差ってとてつもない差ですよね。
18歳を演じるにしても、後輩たちに尊敬される先輩として、「年齢以上に大人っぽく演じる」必要があるかもしれません。
単純に「18歳を演じる」とだけイメージしても、基本的に外側の演技にしかなりません。
この場合では「私は18歳です」という表現をしているだけです。
でも、そんな表現は必要ないというか、不自然ですよね。
必要なのは「頼れる上級生の大人っぽい18歳」や「まだ未成年の頼りない18歳」などの情報です。
18歳という情報だけを表現するのは間違っていますし、そもそも18歳だけを表現するってどうすれば良いんでしょうか?
ぶっちゃけそんなの難しすぎます。
「大人っぽい18歳」や「まだまだ幼い18歳」と考える方が何十倍も簡単に表現できると思いませんか?
設定を多くリスト化するのは、キャラの要素を増やす助けになります。
しかし、実際には全ての設定を自分で考える方が少ないでしょう。
たいていは原作や詳細な台本・設定集がある場合がほとんどです。
その場合は、原作などで描かれている設定を拾い上げてキャラを作り上げつつ、詳しく描かれていない要素を自分でリスト化して補完しましょう。
そうすることで自分の気付かなかったキャラの一面に気付くことができますし、自分独自のキャラの解釈を持つことができます。
それを演技に反映させることで演技のクオリティはどんどん上がっていきますよ。
設定は全部使わず、1~2個をピックアップしよう
リスト化した設定は全部使わないようにしましょう。
オススメはシーンごとに1~2個をピックアップして意識する方法です。
なぜなら設定を全て一度に表現する能力は人間にはないからです。
「折角、考えた設定を使わないのか」と残念に思う方もいるかもしれませんが、できないものは仕方がありません。
上の「熱血系で、爽やかな高めの声でハキハキと大きな声で話すキャラ」の設定をさらに深掘りしたもので、なぜ不可能なのか考えてみましょう。
年齢:18歳→頼れる上級生で大人っぽい | 性別:男 |
職業:高校生(3年生:野球部)→ピッチャーで4番 | 趣味:甘いものを食べる→甘党だとバレるのが恥ずかしいので友人には隠している |
家族構成:父・母・兄・弟の5人家族→男兄弟で育ったため、やんちゃな性格。父に怒られるのは未だに怖い | 悩み:英語の授業がさっぱり分からない→レフトとライトを覚えるのが大変だった |
夢:甲子園出場→最後の年なのでかなり気合が入っている。将来はメジャーリーガーになりたい |
リストの設定を色んな方向に深掘りしました。
ぶっちゃけ、「甘党」や「英語が弱い」など演技に使う場面があるのかというものもありますね。
リストの内容はより多く、より深く設定できた方が良いです。
しかし、役を演じるときに「高校生だけど、大人っぽい雰囲気で演じて、野球部のピッチャーだということも意識しよう。さらに甘党かつ英語が苦手で男三兄弟の真ん中も表現しよう」としても意識できないですよね。
つまり、リスト化した設定は全てを使うわけではありません。
リスト化して設定を深掘りする目的は、キャラを一面的なものから多面的にするためです。
普段は「大人っぽい」けど、兄弟や仲の良い友達の前では「やんちゃ」な一面もある。
実際、その方がリアルな人間っぽいですよね。
勘違いしてはいけないのは、「大人っぽい」と「やんちゃ」を同時に表現する必要はないということです。
全ての設定を表現するのではなく、セリフごとやシーンごとに表現する要素を選択しましょう。
キャラの設定・要素を明確に決めることで、色んな角度から見たキャラを意識することができて、演技に奥行きが生まれます。
セリフを言うときの演技の組み立て方
実際に、セリフを言うときに意識すべきことが何なのかを詳しく説明していきます。
演技の組み立て方は人それぞれなので、このやり方だけが絶対の正解というわけではありません。
なので、演技の組み立て方をよく把握していない方はこれを参考にしていただいて、そこから自分流の演技の組み立て方を見つけていってもらえたらなと思います。
①外側の設定からキャラのベースを作る
まずは外側の設定を組み合わせて、おおまかなキャラの造形を決めてしまいましょう。
これは初心者の方でも考えられている方が多いと思います。
上でも紹介しましたが、「外側の設定」に分類される要素をまとめました。
このような外側の設定から、いくつかの要素を組み合わせて、キャラのベーシックな声・喋り方を設定しましょう。
コツとしては、色々な要素を組み合わせるのが大変ならシンプルに作ってください。
キャラに使う声色は考えなくても大丈夫です。
「え?声優なのに声をつくらないの?」と思っている方は勘違いをしています。
声優は別に声を作っていません。厳密にいうと設定を作る中で声は勝手に変化するのです。
最終的な話でいえば、役のクオリティを上げるために「もっと高い声で演じてみよう」や「もう少し声を老けさせよう」などと逆算をする場合もありますが、ぶっちゃけ初心者のうちは声色のことは考えない方が確実に演技力が伸びると思います。
なぜなら声色に意識が向きすぎて、演技の要素に集中できなくなるからです。
はじめのうちはシンプルにキャラのタイプ、年齢のイメージだけを表現できればオーケーでしょう。
②セリフが喜怒哀楽のどれに属するかを考える
次にセリフを言うときの「喜怒哀楽」を考えましょう。
これも既にできている方が多いんじゃないでしょうか。
逆に言うと、「キャラのイメージを作って、セリフにあった感情でセリフを言う」で終わってしまっている方が大半だともいえます。
しかし、それだと「喜怒哀楽」の4種類しか感情を表現することができません。
それが初心者の演技が上手くならない一番の原因だと、僕は思っています。
例として、「熱血系で、爽やかな高めの声でハキハキと大きな声で話すキャラ」が部活の練習をサボっていた後輩たちを見つけたときというシチュエーションでセリフの言い方を考えてみましょう。
この「お前たち、何やってんだ」を「喜怒哀楽」の怒りだけで表現すると、かなりキツイ言い方になってしまいます。
その言い方が正解、不正解かは置いておきますが、「もう少し優しく叱る感じで」や「もっともっと怒りを増幅させて」とオーダーされたときにこのままでは上手く演技の調整ができなくなります。
なぜなら、怒り方が1パターンしかないからです。
このパターンを増やすために「内側の設定」が役に立ちます。
③内側の設定で喜怒哀楽の4パターンを細分化する
例えば、「頼れる上級生」という設定を使ってみます。
この「頼れる上級生」というのは、まだ外側の設定に分類されています。
それを判断するのは周りにいる人間ですからね。
これを内側の設定に変えるには、なぜ「頼れる上級生」と周りに判断されるかの理由を考えます。
「本人が上級生として頼れる先輩を意識して演じているから」かもしれませんし、「弟がいる環境から自然と年下に気を使える人」なのかもしれません。
「意識して頼れる先輩を演じている」と考えてみましょう。
その場合、練習をサボっていた後輩を見つけて怒りを覚えたが、それを感情的に伝えることが、「頼れる先輩」として顧問と後輩の間で緩衝役をしている自分がするべきではないと判断して怒りを抑えるという選択をするかもしれません。
そうすると、「もう少し優しく叱る感じで」というオーダーにも応えることができる演技に近づきます。
演技初心者のうちは、怒りの演技に優しさを足してと言われると、そのまま自分が作った怒りの演技に無理やりに優しさをプラスして演技がグチャグチャになる場合がほとんどです。
自分の中で優しさがプラスされた理由を考えてあげないと、演技は絶対に上手くいきません。
その理由付けをサポートしてくれるのが「内側の設定」です。
感情が動く理由を見つけることで、あなたの演技によりリアリティを与えることができます。
まとめ
演技をするうえでのコツや、演技の組み立て方を解説してきました。
初心者のうちは演技ってどういうものなのかもよく分からない方が多いと思います。
そのままなんとなくで演技を続けているとそれがクセになって、よく分からない演技のままズルズルと進んでしまう方も結構います。
早いうちから、自分流の演技の組み立て方を見つけるのはとても大事な作業です。
あなたも一度、自分が演技の組み立て方をどうやっているのかを立ち返って考えてみるのをオススメします。
案外、自分がどうやって演技を組み立てているのか説明できない方も多いですからね。
自分流の演技の組み立て方を理解していると、音響監督などからの演技のオーダーに応えやすくなりますよ。